大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)1653号 判決 1965年6月28日
理由
控訴人は本訴において被控訴人に対し為替手形の振出人としての遡求義務を問うものであるところ、《証拠》によると、本件手形は受取人欄並びに振出日欄が白地のままで振出され、支払のため呈示された際も右事項の記載を欠いていたこと、その後所持人である控訴人が本訴係属中の昭和三九年八月二四日頃右白地部分に記載したことが認められる。右の場合振出人が欠缺している手形要件を補充する権限を授与していたかどうかによつて、本件手形は或いは未完成の手形すなわち白地手形となり或いは要件欠缺の故に無効な手形となるが、後者の場合本訴請求は勿論理由がないことが明らかなので、以下前者の白地手形として論を進める。(もつとも振出日欄、受取人欄白地のときは、特段の事情がない限り、所持人に補充権が授与されたものと解せられるので、白地手形と認められる。)
ところで白地手形は欠缺した手形要件の記載が補充されるまでは未完成の手形に過ぎず右手形によつて手形上の権利を行使してもその効力を生ずるものではないから、右手形による支払のための呈示は無効であり、又後日右要件の記載が補充されても署名者が手形上の責任を負うに至るのは補充の時であるから、右呈示が遡つて有効になるものではない。(最高裁判所昭和三三年三月七日判決判例集一二巻五一一頁)控訴人は白地手形による呈示の有効なことが商慣習上認められていると主張するが、右のような商慣習の存在は認められない。控訴人は本件手形の記載よりして白地部分の受取人、振出日が推定されるというが、右のようなことは白地部分につき記載があつたものとして末完成手形を完成手形とするものではない。もつとも振出日、受取人等が白地のまま支払場所に呈示され未完成手形であるという理由ではなく取引なし等の理由で支払を拒絶されていることは訴訟上往々見受けるところであり、右のような白地手形に対しても支払がなされていることが窺われないでもないが、白地手形による呈示は無効であるとの判決が屡次なされ判例として確定し学説も殆ど一致して同旨である現在、右のような取扱は有効な呈示があつたことを意識してなされたものとか又慣習となつているとかは到底認めがたい。
したがつて呈示期間経過後に白地部分を補充しても、遡求義務者に対しては、主たる債務者に対し改めて有効な呈示をすることができるのと異なり、遡求の要件たる呈示期間内の有効な呈示をなすことができないためその義務の履行を求めることはできない。
そうすると控訴人の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく失当として棄却すべきである。
よつて右と同旨の原判決は相当であるから本件控訴を棄却。